I.甲状腺
1.個体発生、正常構造と機能、制御機構
<発生> 舌の盲孔 foramen caecum から湾入して、気管の前面を下降し、
そこで成人の甲状腺を形成する。 不十分な下降と過度の下降が有りうる(発生異常)。
鰓弓発生が異常であると、胸腺や副甲状腺が甲状腺内に存在することになる。
<正常構造>
甲状腺は日本人の成人では、15-20グラムほどの重量である。左右の両葉は峡部 isthmus
で連絡される。腺組織は濾胞と呼ばれる立方上皮で被覆された特有の管腔構造が
薄い血管線維性の間質で介在される。その間にcalcitoninを作るC細胞が散在する。
<機能>
T3: triiodothyronine, T4: thyroxine
Thyroxine-thyronine-binding globulin (TBG), and other plasma protein (prealbumin,
albumin)
Free T3 and T4 --> specific nuclear receptors
<制御機構>
TRH (hypothalamic thyrotropin-releasing hormone) - TSH (pituitary
thyroid-stimulating hormone) - T3, T4 (classic negative feedback loop)
T3, T4の産生低下 --> increase of TSH-TRH --> thyroid enlargement (GOITER)
* Goiter: an enlargement of the thyroid gland, causing a swelling in front of the neck (Dorland's Illustrated Medical Dictionary)
2.機能異常症
甲状腺の組織像は必ずしも機能の状態を反映しない。一般的には、機能が亢進すると、
濾胞上皮が過形成して、乳頭状になるとは言われるが、、、
更に治療が加わると形態で機能を評価することが一層困難になる。
<機能亢進症: hyperthyroidism, thyrotoxicosis>
Elevated level of free T3, T4 --> hypermetabolic state
臨床像: 動悸、頻脈、易疲労性、体重減少、下痢、神経質、発汗過多 - moist skin、眼球突出など (女性に多い)
Graves病: (Robert James Graves, Irish physician, 1796-1853)
定義:Diffuse hyperplastic goiter (cf. toxic nodular goiter)によって起こされる機能亢進症(定義)機能亢進症を起こす他の病態: 急性および亜急性甲状腺炎など (下垂体腺腫によるものは稀)
症状:Merseburg's triad = goiter(甲状腺腫大), tachycardia(頻脈), exophthalmos(眼球突出)
Ophthalmopathy: 眼瞼は強く開き、眼光鋭利、眼瞼腫脹、外眼筋麻痺のため複視
Dermopathy: localized (pretibial) edema
女性に多い、HLA-B8, DR3との関連(白人)、橋本甲状腺炎あるいは他の自己免疫疾患 (関節リューマチ、悪性貧血)との合併。甲状腺癌のリスクが増すとの報告はない
成因と病因論:TSH receptorに対するIgG自己抗体による自己免疫疾患
1. thyroid-stimulating antibodies (TSAb) or thyroid-stimulating immunoglobulin (TSI) --> adenylate cyclase --> cAMP
2. thyrotropin-binding inhibitor immunoglobulin (TBII) --> binding to TSH receptor, mimicking the action of TSH (甲状腺細胞の機能を促進することも抑制することもある)
3. 他にも自己抗体が同定されているが、「それらはThyromaniacsに任せておけ」 と成書にも書かれている。
眼症の機序については、眼筋と眼窩の脂肪組織内にリンパ球浸潤(CD4+ or CD8+)があるので、 T細胞を介した免疫機序が考えられている。
病理形態学: 一様に腫大するが、重量が80グラムを超えることは稀である。割面は肉様。 組織像では、細胞密度が高く、円柱細胞の丈が高く、乳頭状になることもある(前述したとおり)。 内腔のコロイドは減少する。時に濾胞形成をともなうリンパ球浸潤が間質にある。
ただし、術前の治療の修飾により、この古典的な像を見ることはむしろ少なくなっている (ヨード剤投与でコロイドは増加し、腺組織は萎縮する。Thiourea剤投与で過形成となる)。
検査所見: 放射性ヨード取り込みの亢進、TSH減少、total and free T3 and T4上昇
3.腫大−びまん性および多結節性Goiter (=Struma)
びまん性および多結節性Goiterともに、甲状腺ホルモンの欠乏にともなうTSHの代償性上昇により、
甲状腺濾胞上皮の過形成と肥大によって起きる病態であり、多くは機能は正常である(euthyroid)。
最初はびまん性であったものが結節性になることがある。
<Diffuse nontoxic (simple) goiter>
定義: 結節を形成しないで、甲状腺全体がびまん性に腫大し、通常は機能の亢進や低下はない。<Multinodular goiter - Plummer病を含む>
Endemic goiter: ヨード摂取不足によるTSH分泌亢進による。山岳地帯(アルプス、アンデス、 ヒマラヤ、)に多い。Euthyroid状態にいたって平衡が保たれる。一方、Goitrogenと呼ばれる goiterを促進する食餌因子も指摘されている(例・キャベツ、カリフラワー)。 これら地方病性のものに比べて、非地方病性あるいは散発性Goiterといわれるものは数が少なく、 原因も明らかでないが、一部は遺伝性である。
臨床像: 先天性の原因によるものの場合はクレチン病になることもあるが、 多くはeuthyroid状態で平衡に至る。
病理形態学: 過形成期(新たに小型の濾胞が形成され、コロイドは乏しい)からコロイド退縮期へ
Diffuse goiterが長期に亘るとmultinodular goiterになる。これらは機能異常を伴わない場合もあるし、 機能亢進を伴うこともあり、後者をPlummer病(toxic multinodular goiter)と呼ぶ。 Plummer病は、Graves病とは違って、眼症や皮膚症状を起こすことは稀であり、代謝亢進はより軽い。
多結節性のgoiterはもっとも顕著な甲状腺腫大を起こすために、腫瘍と間違われることが多い。 Diffuse goiterから移行してくるために、地方病性と散発性のものがあり、男女比も同じである。
臨床像: (1)圧迫症状(気管−窒息、食道−嚥下障害、上大静脈症候群、 (2)機能亢進症状(toxic multinodular goiter)、一般に軽く、頻脈などの心血管症状が前面に出る、 (3)T3/T4は軽度に亢進することが多い、(4)放射性ヨードの取り込みは斑状のことも、稀に"hot" nodulesを形成することもある。
病理形態学: 典型例は、(1)過形成性濾胞の集まった結節の形成、(2)それらの間の不規則な瘢痕の形成、 (3)局所性出血とへモシデリン沈着、(4)石灰沈着、(5)微小膿瘍形成、 を示す。
2000 gram以上の重量になることがあるとされる。腫大のパターンはきわめて多彩で、予測不可能であり、 胸骨の後面に伸びることもある。しばしばadenomatous goiter あるいはmultiple colloid adenomatous goiterの誤った名前をつけられる。
4.炎症
<橋本病>
Also known as (a.k.a.) struma lymphomatosa or lymphadenoid goiter<亜急性肉芽腫性甲状腺炎>
リンパ球と形質細胞からなる炎症細胞が甲状腺実質を占める疾患であり、 自己免疫疾患の概念の原形でもある。女性に多く、経過の最後には機能低下症になるが、 経過中には機能亢進症(hashitoxicosis)になることもある。Graves病と重なりあう部分が有る。
成因と病因論: 自己免疫疾患であり, major histocompatibility complex (MHC) class II gene との関連が言われている。これが、免疫担当細胞にthyroid peroxidase (antimicrosomal antibodies) などの甲状腺構成要素に対する自己免疫反応を惹起すると考えられている。 しかし、細胞性免疫と液性免疫のどちらが組織破壊の主役かは不明である。しばしば、 SLE、シェ−グレン症候群、関節リューマチ、悪性貧血、Graves病と合併。
臨床像:機能低下症を示す中年女性の甲状腺腫大(典型例)。女性に圧倒的に多い。 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性、T3/T4減少、TSH上昇。時に機能亢進を示す。
組織像: 1.びまん性腫大型 (goitrous form); 実質がリンパ球、形質細胞、マクロファージの浸潤で 高度に置換され、しばしば胚中心の形成をともなう。Oncocytes (Hurthle cells or Ashkenazy cells, 細胞質が好酸性顆粒状に染まる濾胞上皮)が炎症による濾胞の破壊をしのいで、 残存する傾向が有る。細胞診検査においても、好酸性細胞の出現の際には 橋本病を疑うように言われている。Even a few lymphocytes in among the Hurthle cells means you must at least consider the possibility of Hashimoto's thyroiditis. (Kini SR, Miller JM, Hamburger JI. Cytopathology of Hurthle cell lesions of the thyroid gland by fine needle aspiration. Acta Cytol 25:647-652, 1981)線維化は比較的乏しい。 2.萎縮型 (atrophic variant); 線維化が優位であり、リンパ球浸潤は乏しい。
In Hashimoto's thyroiditis, look for coexistence of atypical Hurthle cells and benign appearing Hurthle cells (in the same smear). (Suen KC. Cytology of head and neck tumors, liver and pancreas. Clinics in Laboratory Medicine. 11:2:317-356, 1991)
A.k.a. De Quervain's thyroiditis, giant cell thyroiditis
女性>>男、HLA-B35、ウイルス原因説が有力(mumps, measles, influenza, adenovirus, coxsackievirus, echovirusなどが先行すること多し−抗体価!)
臨床像: 多彩!、発熱、血沈上昇、疼痛、圧痛をともなった甲状腺腫大。数週間から 数ヶ月で症状は消退し、通常は甲状腺機能は正常化する。
病理像: しばしば片側性の腫大、病初期には好中球浸潤が微小膿瘍を形成、進行期には 濾胞の破壊と多核巨細胞がコロイド物質を取り囲む。後期には、慢性炎症細胞浸潤と 線維化が置換する。
5.良性腫瘍−腺腫
<腺腫>
たいていの腺腫はシンチグラムで放射性ヨードの取り込みのないcoldな病変であり、 その点では悪性腫瘍と鑑別できないが、warmあるいはhotな結節の場合は悪性より良性のことが多い。<そのほかの良性腫瘍>
甲状腺腫瘤の良悪性の術前判定はfine needle aspiration(細胞診)に委ねられることが多いが、 検体不良・不足のため、「判定不可能」あるいは「疑い」の但し書きのある診断が付くことも多い。
事実上すべての腺腫が「濾胞腺腫」であり、それ以上の亜型分類は臨床的な意味がない。 また甲状腺の腺腫は発癌の母地とは考えられていない。
病理形態学: 結節の<全周>が被膜に取り囲まれ、周囲の正常甲状腺とよく境界され、 周囲に対して圧排性増殖をしていることが、 外科病理学的に診断を下す際の条件とされているが、実際にはmultinodular goiterの 結節との鑑別に苦慮することが多々ある。出血、線維化、などの二次的変性が加わることが多く、 完全に嚢腫化して、腺腫成分がほとんど残っていないこともある。
特殊型として、Hurthle cell adenomaがあり、 これは高度に好酸性で顆粒状の細胞質を持った濾胞上皮から構成されている。
出血性の内容を入れた嚢胞に遭遇することがあるが、 実際にはほとんどが濾胞腺腫の二次的変性によってできたものである。
6.悪性腫瘍
甲状腺悪性腫瘍の大部分は癌腫(carcinoma)である。女性に多い。組織型別頻度は、
乳頭癌>>>濾胞癌>>髄様癌>未分化癌の順である。
病因論: 1.医原性を含めた放射線照射、とりわけ20歳以下での
(チェルノブイリ原発事故に引き続いた汚染!)。
日本の原爆被爆生存者の約7%に甲状腺癌が発生したとのデータがある。
通常の医療(診断目的)において使用される照射量では、発癌性はないと言われる。
LONG-TERM RADIATION EFFECTS IN INFANTS: Of 2,872 infants treated with radiation for enlargement of the thymus, 24 thyroid cancers were found, compared with 0.29 expected. No thyroid carcinomas were found in 5055 untreated siblings. The average dose was 119 rads. Benign tumors of the thyroid also occurred in excessive numbers. Papillary carcinomas tended to appear in adolescents and to continue occurring through mid-life. (Hempelmann LH, Hall WJ, Phillips M, Cooper RA, Ames WR. Neoplasms in persons treated with x-rays in infancy: fourth survey in 20 years. J Natl Cancer Inst 55:519-530, 1975.)2.橋本甲状腺炎は悪性リンパ腫のリスクを高める。 3.遺伝性: PTC (papillary thyroid carcinoma)といわれる発癌遺伝子が同定されている。
* Authors studied 148 patients with differentiated thyroid cancer.<乳頭癌>
Papillary carcinoma of thyroid... 5 yr survival, 97%... 10 year survival, 95%.
Follicular carcinoma of thyroid.. 5 yr survival, 78%... 10 year survival, 50%.
Medullary carcinoma of thyroid... 5 yr survival, 91%... 10 year survival, 82%.
The papillary carcinoma of the thyroid, when it recurred, usually recurred in the neck, whereas recurrences of follicular or medullary carcinoma of thyroid more often recurred in distant sites. (Hamming JF, Van de Velde CJ, Goslings BM, Schelfhout LJ,GJ, Hermans J, Zwaveling A. Prognosis and morbidity after total thyroidectomy for papillary, follicular and medullary thyroid cancer. Eur J Cancer Clin Oncol 25:1317-1323, 1989.)
30代から40代にかけてピークがあり、女性優位の発生。最近では、吸引細胞診が術前診断に有効である。
病理形態学: リンパ管侵襲して頚部の所属リンパ節転移をする。潜在癌(オカルト癌、Occult Carcinoma、隠蔽癌: 臓器転移による臨床症状が先行して、後から原発巣が発見される症例)のことも多く、 死後の病理解剖例を詳細に検索するとこの組織型の微小癌は稀でなく見つかる(後者の場合を、 潜伏癌、Latent carcinoma、不顕性癌、ラテント癌などと呼ぶ:死後剖検により初めて発見された癌)。
被膜により包まれることは稀で、大きさはさまざまである。
石灰沈着巣が、肉眼的に、あるいは顕微鏡的に認められることが多い (Psammoma, 英語ではsamo‐maと発音。Laminated concretions usually surrounded by epithelial cells. Psammoma bodies can be found in virtually any papillary tumor, e.g., papillary carcinoma of thyroid, ovarian carcinomas, endometrial carcinomas, and in meningioma.)
組織の上で、すべて乳頭状であろうと、あるいは一部でも乳頭状の部分があれば、 乳頭癌とする(これらは同じ態度をとる。 Mixed tumors - papillary tumors with areas of follicular cancer or solid cancer - behave like pure papillary cancers.)。
乳頭を被覆する上皮細胞の核には(1)しばしば核内”封入体”(電子顕微鏡で見ると実際には細胞質の核への湾入 - Intranuclear cytoplasmic inclusions)がある、などの特徴がある。
(2)核膜にコーヒー豆状のくびれがある (Shurbaji MS, Gupta PK, Frost JK. Nuclear grooves: a useful criterion in the cytopathologic diagnosis of papillary thyroid carcinoma. Diag Cytopathol 4:91-94, 1988)、
(3)英語では"empty" nuclei,"Orphan Annie eyes" nuclei, "owl's eye" nucleiと呼ばれる (Also referred to as ground glass nucleus)、核小体のない、染色性の低い核(「清明核」)が 見られる(There is a distinctive blurring of the nuclear chromatin so it becomes pale blue and homogeneous, without pattern, in papillary carcinoma of thyroid)、
亜型としては、濾胞型乳頭癌(follicular variant of papillary carcinoma)といわれるものがあり、 乳頭癌の核の特徴を有するにもかかわらず、ほとんど完全に濾胞構造の構築をとる。
Papillary thyroid carcinoma can sometimes have a follicular architecture. Look for the characteristic Orphan Annie (cleared) nuclei of papillary carcinoma in the tumor follicles (H and E). These tumors behave like papillary carcinoma, not follicular carcinoma (i.e., have a better prognosis than follicular cancer). Indicates that cytology can sometimes be more reliable than architectural growth (histologic) features.
50代から60代にかけてピークがあり、女性優位の発生。<未分化癌>
病理形態学: 濾胞癌と濾胞腺腫は鑑別が容易でないことがしばしばあり、 被膜侵襲の有無が決め手になる。核には乳頭癌に見られる特徴はなく、 微小石灰沈着(砂粒腫)もない。乳頭状の構築が一部にでも見られれば、 乳頭癌と診断している。組織形態がおとなしく、濾胞腺腫と鑑別困難な 場合は、被膜侵襲と血管侵襲のみが決め手となる。したがって、細胞診で 濾胞癌と診断するのはほとんど不可能である。リンパ管侵襲 は一般にはしないため、所属リンパ節転移はまずないが、血管侵襲はするため、 骨、肺、肝臓への転移はある。FNA (fine needle aspiration cytology) cannot distinguish between follicular adenoma and follicular adenocarcinoma nor between Hurthle cell adenoma and Hurthle cell carcinoma. (Hajdu SI and 12 panelists. The value and limitations of aspiration cytology in the diagnosis of primary tumors. A symposium. Acta Cytol 33:741-790, 1989).
甲状腺癌の5%以下である。Seen in: Elderly individuals and more common in women. Age reported at the time of the initial diagnosis is 60 - 65 years. Diagnosis of undifferentiated carcinoma very unlikely in a young patient. Almost always presents as a rapidly enlarging neck mass in the thyroid region. (Atlas of Tumor Pathology. Tumors of the Thyroid Gland. Armed Forces Institute of Pathology, Washington, D.C., 1993)<髄様癌>
病理形態学: 紡錘細胞癌、巨細胞癌、小細胞癌の3亜型がある。急速に増殖し、 大きくなる。巨細胞癌は、奇怪な形態の、多核巨細胞から構成される。 しばしば、乳頭癌や濾胞癌の成分が混在するため、より分化した癌が 未分化癌に変化したのではないかと考えられている。
上記の3つの癌と異なり、本腫瘍は甲状腺の傍濾胞細胞(parafollicular cells) 起源の、神経内分泌系の腫瘍である。したがって、本腫瘍の特徴として、(1)カルチトニンを分泌するため、診断のためのよいマーカーとなる、カルチトニン以外に、somatostatin、prostaglandin、serotonin、 ACTH、carcinoembryonic antigen (CEA)、neuron-specific enolase (NSE) などを産生することもある。
(2)間質にアミロイドの沈着(カルチトニン由来)を伴う、
(3)20から25%がMEN症候群IIaとIIb(その他の家族集積性, with an autosomal dominant pattern of inheritance)を伴う。 他に内分泌腫瘍を伴わない家族性の髄様癌もある。 The nonfamilial tumors occur in patients over 40 years of age. The familial-occurring medullary tumors occur much earlier.
病理形態学: 片葉に孤立性に発生することも、両葉に多数の結節を形成することもある。 家族性の症例では、多発が多い (Bilateral tumors were found in 40 of 41 familial cases. Block MA, Jackson CE, Greenwald KA, Yott JB, Tashjian AH Jr. Clinical characteristics distinguishing hereditary from sporadic medullary thyroid carcinoma. Treatment implications. Arch Surg 115:142-148, 1980)。間質にはアミロイド物質の沈着を見ることが 特徴的である(medullary carcinoma with amyloid stroma、半数近くの症例において)。 腫瘍細胞は、索状あるいはリボン状の配列をとることも、甲状腺濾胞類似の構築をとることもある。 電子顕微鏡では、一枚の限界膜で囲まれた分泌顆粒が観察される。家族性発症の症例では、 C細胞過形成がしばしば見られるとされる。95% react positively for calcitonin. 100% react positively for carcinoembryonic antigen (CEA: MW 200,000. In fetal life, seen in gut tissues. In normal adults, no normal tissues have CEA positive cells. Seen in a variety of tumors, especially GI tumors.).
* Based on immunohistochemical study, classical medullary carcinoma of the thyroid does not secrete thyroglobulin. However, in mixed follicular and parafollicular tumors (those with trabecular and follicular growth patterns), there was positivity for thyroglobulin and calcitonin (de Micco C, Chapel F, Dor A-M, Garcia S, Ruf J, Carayon P, Henry J-F, Lebreuil G. Thyroglobulin in medullary thyroid carcinoma: immunohistochemical study with polyclonal and monoclonal antibodies. Hum Pathol 24:256-262, 1993.)
* PROGNOSIS OF MEDULLARY CARCINOMA OF THYROID: The tumor generally pursues an indolent course, with 5-year survival rates in the range of 60 to 70 percent after thyroidectomy. (Rosai J, Carcangiu ML, DeLellis RA. Atlas of Tumor Pathology. Tumors of the Thyroid Gland. Electronic Fascicle Version 0.93, Armed Forces Institute of Pathology, Washington, D.C., 1993.)
* FAMILIAL VERSUS SPORADIC MEDULLARY CARCINOMA: An important feature that distinguishes familial from sporadic medullary carcinoma is the presence of C-cell hyperplasia in the former group. Moreover, foci of hyperplasia and early carcinoma are apparent in sections away from the main neoplasm. Briefly, early (microscopic) carcinomas are characterized by the extension of C cells through the follicular basement membrane into the thyroid interstitium. (Rosai J, Carcangiu ML, DeLellis RA. Atlas of Tumor Pathology. Tumors of the Thyroid Gland. Electronic Fascicle Version 0.93, Armed Forces Institute of Pathology, Washington, D.C., 1993.)
7. その他
<甲状舌管遺残および嚢胞>
気管の前の頚部正中部に液状内容を入れた嚢胞として顕在化する。 甲状舌管の発生経路の上部であると、扁平上皮に被覆され、 下部のものは甲状腺上皮類似の細胞に被覆されることが多い。 周囲にリンパ球浸潤を伴う。
2.副甲状腺(上皮小体)
1.発生、正常構造と機能、制御機構
<発生> 上下の対の合計4個からなり、
上の2個(parathyroid IV)は第4咽頭嚢(The fourth branchial pouch)から、
下の2個(parathyroid III)は第3咽頭嚢から胸腺と”お付き合い”しながら、長距離を下降する
(したがって、下の2対の方が、起源はより頭側に位置する!
また最終的な”着地点”もばらつく)。成人では、
黄褐色の卵円形の被包されており、
外形、大きさがリンパ節に類似しているために副甲状腺の摘出手術では、
外科医がリンパ節を提出してくることがある(必ずしもミスでというわけではなく、
それぐらい肉眼的に似ていると言うべきである。なお、空振りの手術を避けるために、術中に病理に迅速診断を要請して、
摘出された組織が確かに副甲状腺であることを、凍結切片で確認をするのが常套である。その意味で、
常勤の病理医がいる病院での手術が通常である)。
<正常構造>
構成細胞は、
- 主細胞 chief cells:PTHの主なる産生の場である。の3者である。
- 水様明細胞 water clear cells:グリコーゲンに富むために細胞質が淡明になる。
- 好酸性細胞 oxyphil cells:主細胞よりわずかに大きく、細胞質が好酸性に染まり、 ミトコンドリアが密に詰まっている。
- 骨からカルシウムを動員する。作用の経路は、PTHがまず骨芽細胞の膜レセプターに結合し、 骨芽細胞が破骨細胞にシグナルを伝達する。PTHと膜にあるレセプターの複合体は、 膜結合性のG protainに作用して、adenyl cyclase - cAMP(second messenger!)の経路を活性化している。
- 腎尿細管からのカルシウムの再吸収を増加する。
- 腎においてヴィタミンDの活性化を促進して、腸管からのカルシウムの吸収を促進する。
- リン酸の尿排泄を促進して、血清中でのリン酸値を下げる。
2. 機能亢進症−一次性、二次性、三次性
<一次性機能亢進症、Primary Hyperparathyroidism (PHPT)>
定義:副甲状腺に内在する疾患によりPTHの過分泌をきたし、高カルシウム血症と低リン酸血症を起こす。<二次性機能亢進症>
原因疾患としては
1.腺腫自律性に増殖、機能する腫瘍(腺腫、癌)の場合、高カルシウム血症による抑制がかからず、 また過形成の場合もおそらく主細胞のレセプターの欠陥により、機能亢進状態が持続する。
2.一次性過形成(びまん性および結節性)
3.副甲状腺癌
非内分泌腫瘍においてもparaneoplastic syndromeの機序で高カルシウム血症が起きる。 乳癌、多発性骨髄腫、その他の血液腫瘍の場合には、骨に接する腫瘍細胞が何らかのサイトカインを分泌することで、 局所で骨吸収を促進すると考えられ、もう一つの機序として肺の扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、卵巣癌などは、 腫瘍細胞が液性因子を分泌しているのだと信じられている。後者の有力な候補として、PTH-related peptide (PHTrP)があり(遺伝子の座は、PTHの11番染色体とは異なり、12p12-11である)、 正常なPTHとの間に緊密なホモロジーを有するためにPTHレセプターにin vitroで作用する。
臨床像:大部分は無症状。進行した例では、骨疾患(osteitis fibrosa cystica)と尿路結石の疾患となる。 消化器症状としては、吐き気、嘔吐、潰瘍、膵炎などがある。
病理形態学:腺腫: 腺腫は由来が単クローン性であり、過形成は多クローン性のために、腺腫は通常単発性で、 被膜に包まれ、その内部には脂肪細胞がない、というのが基本的な考え方である。 また、機能性の腺腫があると、残り3個の腺は萎縮傾向にあるのが普通である。 (実際には副甲状腺の腺腫と過形成の鑑別はきわめて難しく、不可能な場合もある)
一次性過形成: 散発例とMENに伴う例がある。 4個すべてが過形成になることも、非対称性に発現することもある。 一個あるいは二個が目立って腫大している場合には、過形成と腺腫の鑑別はきわめて困難となる。 組織学的に、主細胞がびまん性に、あるいは結節性に増生し、線維束が実質を分割する。 増生細胞は、充実性シート状、索状あるいは濾胞状の配列をとり、脂肪細胞が散在する。
副甲状腺癌: 細胞形態だけから癌と診断するのは難しいとされ、 局所浸潤と転移が唯一の信頼できる悪性の判定基準である。
定義:低カルシウム血症を起こす副甲状腺以外の疾患に伴い、それに対する反応として、 あるいは血清カルシウム値に対して副甲状腺の感受性が悪い場合に、 副甲状腺が反応性にPTHの過分泌を起こす。<三次性機能亢進症>
一番頻度が高いのは腎不全(uremic hyperparathyroidism)である。その他には、ビタミンD欠乏症、骨軟化症がある。
標的器官のレセプターにPTHに対する反応性の欠損があって、 二次性機能亢進症を起こすものを偽副甲状腺機能亢進症(pseudohyperparathyroidism)という。
いずれにしても、この病態では主細胞の過形成が起きてrenal osteodystrophyと呼ばれる骨病変 (osteitis fibrosa cystica, osteomalacia)を作る
病理形態学: 一次性亢進症における、過形成の所見にほぼ一致する。
予後: 原疾患が治療されると、副甲状腺は元の大きさに戻る。 しかしながら、二次性過形成が長期に及ぶと、次に述べる三次性が起きる。
定義:二次性副甲状腺機能亢進症が持続した結果、自律性の腺腫が発生してくる病態。 遺伝子に欠陥が起きている可能性が論じられている。
3. 機能低下症
PTH分泌不足から低カルシウム血症に至る原因としては、
− 外科的切除: 甲状腺全摘術、一次性副甲状腺機能亢進症に対する手術で採りすぎた場合、など症状:
− 先天性欠損 (DiGeorge症候群)
− 自己免疫疾患
− その他
− 低カルシウム血症にともなう神経・筋肉の興奮性亢進。古典的な神経学的診察法として有名なのは、 顔面神経を叩打することで顔面筋(眼、口、鼻)の収縮を引き起こすChvostek徴候、 血圧マンシェットで前腕の血流を低下させて手根痙攣を引き起こすTrousseau徴候、などが有る。 更に症状が進むとテタニー、痙攣が起きる。
− 易刺激性、鬱病、神経症などの精神神経症状。
− 心臓の刺激伝導系に関連した心電図変化。
4. 副甲状腺癌
(*2.機能亢進症の項でのべたことの補足である)
副甲状腺癌は副甲状腺亢進症例の約2-4%を構成するとされる。
症状: Osteitis fibrosa cystica、腫瘤の触知、尿道結石、など
病理形態学: 平均最大径が3 cmほどであり、1.3 cmから6.2 cmほどの範囲がある。
多くは弾性硬、割面は灰褐色、分葉状である。
腺腫と違って甲状腺、食道などの周囲組織に癒着していることが多い
(したがって、外科医の手術場での所見が重要である)。
組織学的には、細胞の索状配列、核分裂像、厚く無細胞性の線維束による分割、
被膜および脈管侵襲などが見られることが多い。ただし、細胞形態から癌と腺腫を鑑別することは、
しばしば難しい。腺腫と診断された後、時間がたってから肺に転移してきた症例もある。
転移先としては、所属リンパ節、肺、肝臓、骨などがある。
3.膵内分泌(省略)
4.多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia syndrome)
1.MEN I (Wermer's) syndrome
副甲状腺: 過形成、腺腫 − これに伴う高カルシウム血症の症状で受診してくることが多い。
膵臓ラ氏島腫瘍: 多くは腺腫、時に癌、稀に過形成 − ガストリン、インシュリン、セロトニン、などの産生に伴う症状。 Zollinger-Ellison症候群(A gastrin-producing islet cell tumor in association with a gastrin-induced peptic ulcer)、低血糖(インシュリン分泌腫瘍)が起きる。
脳下垂体: 腺腫、多くはホルモン産生能はなく、たまたま見つかる。あるいは局所症状を示す。
副腎皮質: 過形成
その他、
An autosomal dominant disorderであり、遺伝子異常の座としては、11q11-13が挙げられ、抑制遺伝子の欠損が原因と考えられている。
(Achtung! --- WERNER'S SYNDROME VERSUS WERMER'S SYNDROME.
Werner's syndrome is progeria, i.e., accelerated aging 早老症)
2. MEN II (IIa) (Sipple's) syndrome
A.K.A.(also known as) "medullary thyroid carcinoma-pheochromocytoma" syndrome
甲状腺:髄様癌が本症候群の首座にあり、しばしば多発性で、高カルチトニン血症を伴う。 他に、プロラクチン、ACTH、セロトニンなどを産生することもある。
副腎髄質: 褐色細胞腫、しばしば両側性であり、副腎外に発生することもある。
遺伝子異常の座としては、10q11.2上のRET proto-oncogeneのmutationが挙げられ、同遺伝子異常は MEN IIの髄様癌と褐色細胞腫で同定できる。
2. MEN IIb OR III
A.K.A. "mucosal neuroma" syndrome
"medullary thyroid carcinoma"と"pheochromocytoma"に加えて、舌、口腔、眼、気道、消化管、膀胱、 など粘膜・皮膚に発生してくる神経腫(neuroma)、神経節神経腫(ganglioneuroma)を伴う。 更に、マルファン様体型、副甲状腺過形成を伴うこともある。
遺伝子異常の座としては、RET proto-oncogeneのMEN IIaとは異なるmutationが挙げられ、 一方約半数は一見散発例に見えるという。
「内分泌の病理学 I (内分泌学概論、脳下垂体、副腎皮質と髄質、松果体)」へ戻る
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